閑話休題ーつぶやき:「悪人」と「普通の人」の境界線

ここでは、映画紹介ではなく、私の好きなことをつぶやかせてもらえればと思います。

いきなりですが、韓国の俳優キム・ユンソク(左)とソン・ガンホ(右)をご存知でしょうか。

ちなみにわたしは、特に”韓流”好きではないし、人気のBTSの楽曲にはまったく疎く、メンバーの人数すらわからないという始末。じゃあなぜ、突然、この2人の話をしたいのかというと、単順に「凄い」と思うから。もちろん、日本にもハリウッドにも、世界を見渡せば優れた俳優はたくさんいるだろうけれど、「悪人」や「普通の人」を演じさせたら、この2人は本当に凄いのだ、という話に、しばしおつきあいください♪

 単に演技が上手い、のではなく、もはや演技であることを忘れさせる恐ろしさがあります。目線や顔のしわ、口角の微妙な動き、身体の向き、煙草をもつしぐさ、笑顔、何かを捉える虚無なまなざしのディテールの総体が、観ている人の「すぐ隣にいるかのような臨場感」を醸し出している。

 

1987、ある闘いの真実」で事実を隠蔽し、民主化を求める市民を弾圧する警察幹部役を演じたキム・ユンソク。「ファイー悪魔に育てられた少年」(2013年)で犯罪組織のリーダー(かつ、少年ファイにゆがんだ愛情を注ぐ父親)役を演じました。また、「海霧 (邦題:海にかかる霧)」では、生きるために密航を引き受け、ある事態から狂気を増幅させる漁船の船長を、「黄海(邦題:「哀しき獣」)」(2010)では、借金にまみれる主人公(ハ・ジョンウ)に借金の帳消しと引き換えに殺人を持ち掛ける冷徹な悪徳業者がぴったりはまっておりました。この人、悪役以外、演じたことあるのかしら?と思うほど(失礼💦)。まったく質もタイプも異なる悪役にも関わらず、どれもこれも暴力的なまでのカリスマ性で、組織や周囲の人間の自由も権利も根こそぎ抉り取る、すさまじい存在感で、観ているこっちまで引きずり回される感覚になるし、彼による「悪」が、何かを必死で守ろうとする切実な選択の積み重ね、という、私たち誰もが陥るかもしれない人間の性を容赦なくぶつけてくる。だから、描かれるストーリーは遠い世界で起きていることなのに、彼が演じる人間が、いつの間にか自分の傍らにいて、逃げても隠れても、ひたひたとどこまでも追いかけてくるような不気味さがあります。

 ここまで思い切り言っておいて何ですが…たっぷり悪役を担ってきたユンソク氏には、「1987」「チェイサー」「黄海」で[敵役]だったジョンウ氏と「ただのんびりおしゃべりに興じる関係」とか、「近所の子どもが集う駄菓子屋のおじさん」など、うーんと穏やかな人を演じてほしい…と思ったりもします。見ごたえはどうあれ、そんな姿も見てみたい、とひそかに願う今日この頃。ちなみに「暗数殺人」(2018)は、「悪くない」ユンソク氏に出会える極めて貴重な作品です(笑)😊

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↑ 左から3人目がキム・ユンソク、その右隣がハ・ジョンウ

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( ↑ 左:ハ・ジョンウ 右:キム・ユンソク)

 

ソン・ガンホといえば、「殺人の追憶」(2003),「タクシー運転手―約束は海を越えて」(2017)、そして近年、大きな話題になった「パラサイトー半地下の家族」(2019)の主演で、どこにでもいる“ちょっとダメな人”(粗野な田舎の刑事、無職で能天気な父親、,稼ぎが足りないドライバー)を演じさせたらもう、天才でしょう。差し迫る状況なのに、バカ騒ぎして飲んだくれたり、ゲラゲラ笑ったり、とぼけたり、人のせいにしたり…「いるよね、こういう人」と呆れつつも、なぜか憎めない(「シュリ」や「JSA」では、シリアスな役も演じておられますが)。

殺人の追憶」で彼が演じたのは、言動も捜査手法も大雑把な刑事。同僚とともに、女性を狙った連続殺人事件の捜査にあたる彼は、重要参考人、物証、目撃者を揃え、犯人の逮捕も目前というところまでたどりつきます。しかし、警察をあざ笑うかのように新たに起きる凄惨な事件と増える犠牲者。焦燥感と怒りのなかで手がかりもどんどん消えていき、楽観的でおおらかだった彼が、しだいに絶望感を全身にたたえていく姿はもう圧巻です。

「タクシー運転手」では、生計を立てることで頭いっぱいのドライバーの運命が、民主化闘争(光州事件)の取材に向かう外国人ジャーナリストを乗せたことで大きく変わっていく様が克明に描かれます。激しい銃撃戦の中、命を落とす市民や若者の姿を見るうちに政治に興味のなかった彼は、ジャーナリストに真実を伝えてもらうために、ある決意をするのですが……

この2つの作品は興味があればご覧いただければと思いますが、つまるところ、《平凡な彼》の周りでは、人(罪のない人たち)がどんどん死んでいくわけです。

ソン・ガンホのすごさは、こういう目をそむけたくなるような悲惨で理不尽な状況に立ち向かったり、闘ったり、といういわゆるヒーロー的存在を演じることではなく、「普通の人」がどう変わっていくのか、というその1点において観る人の心を強烈に揺さぶってくること。悲惨な状況だからこそ、彼の演じる人の「普通さ・平凡さ」が引き立ち、同時に、彼の優しいまなざしや拍子抜けするような笑顔や”すっとぼけ感”が、状況の悲惨さをさらに際立たせる、ということだと思います。いつの間にか彼の一挙手一投足を通して、「当時、渦中にいた人の苦しみや喪失感」に引きずり込まれ、【彼の目】から、人の死や不条理、当時の社会や街並み、人々の動静を目の当たりにしているような感覚に浸ってしまう。

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殺人の追憶」より

 

f:id:Nyancokun:20220115083825p:plainソンガンホの映画実話がもとの作品を紹介!パラサイトも実話なの ...

左:「パラサイトー半地下の家族」より    右:「タクシー運転手 約束は海を越えて」より

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彼らが演じる様々な「どこにでもいそうな」人たちとの出会いを通して、悪と平凡の境界線ってなんだろうか…とふと、考え、悩んでみる。

それも、映画を観る醍醐味だなあ…としみじみ思った、というお話でした