『善き人のためのソナタ』(ドイツ 2006年)

 

国家による残忍で非情な監視システムの実態にメスを入れ、かれらに翻弄された人々の運命を克明に描いた作品。

1989年の劇的な崩壊まで「壁」によって分断されていた東西ベルリン。強固な共産主義を維持していた「東側」では、シュタージ(国家保安省)が市民への徹底的な監視・逮捕、取り調べを担っていた。

シュタージの局員ヴィースラーは、反体制的と目される劇作家ドライマンとその恋人である舞台女優クリスタを監視することに。かれらの些細な会話や友人関係、電話記録、行動などから証拠をつかむ、いつも通りの手慣れた「仕事」のはずだった。しかし、盗聴器越しに、ドライマンが奏でる美しいピアノの旋律や文学の話題、クリスタの自由な思想に触れる中、ヴィースラーは、次第にかれらの世界に魅せられていく。ドライマンの部屋から本を盗んで読みふけり、ドライマンと友人の「計画」を察知しても見逃し、報告書には“嘘”を書くヴィースラー。ある日、当局に逮捕されたクリスタが過酷な尋問を受けることになる。悲劇が迫りくる中、ヴィースラーはどんな決断を下すのか。